イベント新刊サンプル

吸血令嬢と生贄の執事



ボーン、ボーン、ボーン――。

 深夜零時を告げる鐘の音が、薄暗い部屋に響く。
ここはウィルバー家の屋敷。
齢十七の美しい少女ローズは寝台に腰掛け、小さく溜息をついた。
「さあお嬢様、吸血のお時間です」
ローズに傅く者がいる。艶やかな黒髪にエメラルドの瞳と陶器のような白い肌の男性――彼はこの屋敷の執事・ロバート・スミスだ。
「ありがとう、ロバート……あなたの血をいただくわ。すぐに終わらせるから、どうか我慢してね」
言い終えるやいなや、ローズはロバートの白い首元に齧り付く。
――鮮血が、肌に散った。
ローズは肌から溢れる血を、貪るように吸う。
淡い薔薇色の唇から一滴の血が滴り、夜着の胸元を縁取る白いレースを朱に染める。
 恍惚の表情で、ローズはロバートをその腕に抱きしめる。ロバートもまた、自らを傷つける少女の背中に腕を回す。
「ごめんなさい、ロバート。……私、本当はあなたの血なんて吸いたくないのに」
「お気になさらないでください、お嬢様。こう見えても、私は幸せなんです。こうしてお嬢様の一番近くにいられるのですから」
ロバートの言葉は、まるで海水のように、ひりひりと心に沁みる。
それでも、ローズには抗う術はない。

 ローズは夜毎にこうして生き血を吸わないと、すぐに眩暈がして倒れてしまう。そう、ローズは吸血鬼なのだ。人間の血がなければ、一日たりとて生きられない存在――。


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