イベント新刊サンプル

群青奇談 卒塔婆クッキー


「繭子ちゃん、どうしてそんなにきれいなの?」
艶やかな黒髪と透き通るような白い肌、ぱっちりとした大きな瞳を持つ繭子を取り囲み、少女たちは訊ねた。
繭子は今日このクラスへきたばかりの転校生だ。
その輝くような美貌は、転校初日から周りの少女達を虜にした。
「それはね、とっておきの秘密があるんだ。教えて欲しい?」
意味深に人差し指を唇に当て、繭子は微笑む。
「うん、知りたい!みんな、知りたいよねえ?」
少女達は同意する。
「それなら、教えてあげる……秘密はね、このクッキーなの!このクッキーにはね、美容にとても良い成分が入っていて、髪や肌もきれいになるのよ。ただし、効果があるのは恋をしている人だけ!」
金色と青色の模様が入った美しい缶を、繭子は開けて中を見せる。そこには細長く、先端が塔のように削られた不思議な形のクッキーが入っていた。
「……ということは、繭子ちゃんは恋をしているの?」
「ええ、もちろんよ。この学校の男の子ではないけれどね。……って、なんだか恥ずかしいわ!みんなだって、好きな男の子の一人や二人、いるでしょ?」
繭子がぐるりと見回して尋ねると、取り囲んだ少女たちは意味ありげに笑った。そう、繭子の言葉は図星で、私たちにはみな、好きな男の子がいる。
「お近づきの印に、みんなにも一枚ずつあげるわ」
「えっ……いいの?」
少女のうちの一人が声を上げる。
「もちろん。ただしこのクッキーのこと、大人には秘密よ」
繭子はいわくありげに笑って答えた。
可愛らしいクッキー缶に、少女たちの手が伸びる。


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